平成26年度地球環境基金の助成を受けて
作成しました。
みなさん、事業者が何か事業を始めようとするとき、どのようなことを考えると思われますか?
事業者は、できるだけ初期投資を少なく、事業開始までの時間を早くすることを考えます。 環境影響評価などを行うことになると、調査費用が掛かるだけでなく手続きに1年近くかかってしまうため、 事業者は環境影響評価にかからないように事業の規模を調整したりします。
とはいえ、小さな規模であれば全く環境配慮を行わなくて良いわけでもありません。 どんな小さな規模の事業者にも、様々な事業段階で適切な環境配慮を行えば、身近な自然を残すだけでなく、 より自然の価値を高めつつ町の経済発展につなげることも可能になります。 そこで、環境影響評価法や条例にかからない程度の小さな規模の事業に対し、 市民の立場から事業者の環境保全活動を支援するというのは、地域の持続可能な発展にとても有効な方策になるでしょう。 以下に、事業者の事業計画段階から供用段階まで、それぞれの段階でどのような支援ができるのかその可能性について記載してみます。
(1)事業者が立地選定する際の支援
事業者が行う環境保全措置には様々なものがあり、大きくは影響を避ける「回避措置」と影響を小さくする「最小化措置」、 失った環境を人工的に補完する「代償措置」です。 一度自然を壊してしまって同じようなものを人工的に作る代償措置は、 お金もかかるうえ元と同じ状態にまで完全に戻すのはとても難しいです。 一方、「回避措置」は復元や維持管理のお金もかからないうえ、環境の価値を下げることもないので、 最も費用対効果の高い方法といえます。 このような立地選定の支援をすることで、事業者も少ない費用で効果的に環境保全措置を実現できます。
次に、具体的な支援の方法について、もう少し考えてみましょう。 事業立地選定の際、事業者は都市計画図を確認するので、保護区や保安林などは多くの場合避けられます。 しかし、保護などの規制がないけれど地元の生態系の要所となっているような場所は、外部から来た事業者には見当もつきません。 このような場所がどこにあるのかを知っているのはそこに住んでいる人たちだけです。 昔から鳥の集まる場所、クマが時々通る場所、魚が良く集まる場所、ホタルが出てくる場所、トンボがたくさんいるところ、 山菜が取れるところ、キノコのたくさんある山、タケノコが出るところ、おいしい水が出てくるところ、 星の良く見えるところ、景色のよいところなどを地図に落とすことで、いろいろ重要なところが見えてきます。
更に、昔の地形図(旧版地図は大正時代のものから存在します http://www.gsi.go.jp/MAP/HISTORY/5-25-index5-25.html) や空中写真(空中写真は戦後すぐに米軍の撮影したものが存在します。 http://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do)から近年の変遷を調べ、 元々の土地利用や古くからの言い伝え、お祭りに重要なところ、良く水につかるところ、時々土砂崩れや雪崩が起きるところ、 犯罪の多いところ、交通事故の多いところ、観光客の多いところ、子供の遊び場なども地図に落とすと、地域の様々な特徴が見えてきます。
このような地図を継続的に作成してWebで提供すると、開発事業者だけではなく、まちづくりにも大きく貢献するものになると思います。
(2)事業者がデザインする際の支援
事業者は、立地を決めた後、敷地内での施設のレイアウトを考えます。 この際、地域の住民が事業者といろいろ話し合いを持ちながらレイアウトを決めていくと、 環境対策だけでなく、社会面や防災面でも様々な対策を事業計画の中に組み込んでいくことができます。 この時、簡易アセスメントの手法を用いてもよいですし、用いなくても構いません。 特に手法にとらわれる必要はないでしょう。 公害面、自然環境面、社会面で心配される事項を書きだし、 それらが解決されるような方法をいろいろ考えて実現させていくことが重要です。 この時も地域の環境情報マップが有効に機能するでしょう。
(3)事業者が工事する際の支援
事業者が工事する際も地域住民は様々な支援やモニタリングが可能です。 例えば、事業者が計画通りに環境保全対策を実行しているか監視することや、 事業によって鳥が減っていないか、トンボが減っていないか、ホタルが減っていないか、 交通事故が増えていないかなどを監視することもできます。 事業計画のころから参加していれば、既に問題になりそうな項目が分かっているので、 モニタリングする項目を簡単に特定することが可能でしょう。
モニタリングといっても費用がかかるものばかりではありません。 最近は、GPS付のカメラ機能を持つ携帯電話も普及し、 同じところから同じ時刻に写真を撮り続けるだけでも水位の変化や緑地の変化などを記録することができます。 より効果的なモニタリングをするには、事業が開始される前からそこにどの程度のホタルがいたのか、 どのくらいの魚がいたのかなど事前の情報を整理しておくことも重要です。
富士通のクラウドサービス( http://www.fujitsu.com/jp/about/environment/society/activities/case-studies/technology/psystem/ ) などを活用するのも一つの方法かもしれません。
(4)事業者が事業を操業する際の支援
事業の操業が始まってからのモニタリング支援も基本的には工事中と同じです。 事業計画段階で予測できなかった想定外の環境影響が出てきていないか、 近隣の同種の事業よる累積的影響や近隣の別の事業との複合的影響が出てきていないかに注意し、 そのような可能性が感じられたら、自治体や事業者たちに警告を発することも市民の役割になります。
以上、事業の計画段階に合わせ、様々な取り組みの可能性を紹介してみました。 私は、いわゆる簡易環境アセスメントという形や方法にこだわる必要はないと思っています。 結果的に事業者がより環境に配慮した取り組みを行い、 市民が地域の環境により意識を向けるきっかけになるサイトに成長していかれることを期待いたします。
環境アセスメント学会評議員(コンサルティング会社勤務)
浦郷昭子さん