平成26年度地球環境基金の助成を受けて
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米国では年間約6~8万件、中国では約32万件の環境影響評価(以下「環境アセス」という。)が実施されているのに対し、 我が国の環境アセス制度で対象としている事業はその規模が大きく、また事業の種類も限られていることから、 年間の実施件数は70件程度に留まっている。
また、環境アセス制度では対象としない、中小規模の各種開発においては、行政による開発指導等により環境配慮が進められているが、 環境面に特化したシミュレーションに基づく住民等との対話は十分に行われているとはいえない状況下にある。
本書は、環境セスに住民等が向き合うために尽力されてこられた著者の 「環境アセスに自主簡易アセスの取り組みを広げたい」、 「環境アセスにおいて3D-VRを利用したファシリテーションを広げたい」、 「まちづくり・地域づくりの分野における3D-VR利用のすそ野を広げたい」 という3つの思いが綴られている。以下に、本書の構成に沿って内容をご紹介する。
第Ⅰ部「広めよう!自主簡易アセス」では、 まず環境アセスメントの目的や果たす役割が、藤前干潟や愛知万博を例に挙げて、 わかりやすく解説されている。 トピックスとして掲載されている、国際影響評価学会(IAIA)の 「理想的な環境アセスメントための14の基本原則」は、環境アセスに長らく携わっているコンサルタントも、 今一度読み直し、心に刻んで頂きたい内容である。
第Ⅰ部の2点目には、我が国の環境アセス制度の成り立ち、特徴と課題が整理されている。 環境影響評価法に基づく国の制度と、環境影響評価に関する条例に基づく地方公共団体の制度では、 対象事業の規模や種類、評価項目に相違があること、また一般的な環境アセスの手続の流れが解説されている。 そして、我が国の環境アセス制度の課題として、 ①対象となる事業の範囲が狭い、 ②簡易アセスを取り入れていない、 ③計画段階でのアセスを行っていないこと等の指摘があることを挙げ、 その解決の一助として、自主簡易アセスの取り組みを広げることを提案している点は、 コンサルタントとして共感するところである。
第Ⅰ部の最後では、環境省作成の「環境配慮で三方一両得~自主的な環境配慮の取組事例集~」(平成27年6月) の内容を紹介しつつ、著者が進めている「自主簡易アセス」のめざすところが示されている。 すなわち、自主簡易アセスとは、 ①アセスの取り組みを、中小規模の事業に広げて、開発事業等における「作法」としての定着を図り、 ②そこでの科学的な情報に基づく事業者との環境コミュニケーションを育てることで、 日本における環境配慮の質を高めることをめざす、とされている。
第Ⅱ部は、著者がこれまでに取り組んできた自主簡易アセスの3つの実践事例が示されている。 事例の一つ一つに自主簡易アセスを行う上での課題点を示し、 よりよい環境コミュニケーションのあり方を提案していく著者の真摯な姿勢に、 改めて頭が下がる思いで読み進めた。 環境アセスを請け負う側のコンサルタントは、守秘義務等の制約もあって、 その業務を通じて感じたことを公に話すことはできない。 したがって、なかなかコンサルタント側から、環境アセス制度その他の改善に向けた提案ができない状況にある。 本書は、地域と向き合うことを目的に自主簡易アセスに取り組んでいるからこそ語ることのできる、 「簡易であることの難しさ」、「理よりも感情が先に立つ反対の心理」などが赤裸々に語られていることに注目したい。 また、併せて著者が立ち上げた「自主簡易アセスサイト」が紹介されており、その点からも大変有用である。
第Ⅲ部は、「VRを活用した環境コミュニケーション」と題して、 著者らが開発を進めている、3D-VR(三次元仮想現実)技術を活用した環境アセス支援システムが紹介されている。 3D-VRを利用する利点として、様々なシミュレーションの結果を可視化できること(可視化)、 同一空間に様々なシミュレーションを実行することで総合的な判断を助けることができること(総合性)、 そして対策を施した場合の違いや効果をみせることができること(可変性)が挙げられている。
本書は、身近に開発計画が持ち上がり、事業者と話し合いたいと考えている地域住民の方々、 環境アセスを生業としているコンサルタント、 そして制度アセスの審査会で審議に携わる有識者の方々など、 様々な立場で環境アセスに関わる方々に、「環境アセスの本質を今一度見つめ直す」ための図書としてお勧めする。