平成26年度地球環境基金の助成を受けて
作成しました。
NPO地域づくり工房では、発足当初より、環境影響評価(アセス)に関する相談や市民講座の活動を行っています。 2012年度よりは、地元事業者との協働により、自主簡易アセスの事例を開拓し、環境アセスメント学会の場などを通じて発信してきました。 幸いにして、わが国における中小企業と環境NPOの協働による自主的なアセスの先駆例として、各方面よりご注目いただいています。
そこで本会では、 中・小規模の開発事業における自主簡易アセスの取り組みを広めるためのテキストや支援ソフトを2~3年間かけて開発していきます。 まだ試行錯誤の段階ですが、このサイトをご覧いただきまして、ご感想やご意見を賜りたくご協力を心よりお願い申し上げます。
アセスは、科学的な調査・予測を行うとともに、それに基づいた住民等との幅広い情報交流を通じたチェックにより、 事業者の説明責任を果たす努力を促し、環境配慮のあり方に客観性や信頼を与えるための取り組みです。 国の法律や自治体の条例等、制度に基づくものは(以下、制度アセス)、アセスという社会的な営みの一部に過ぎません。
自主アセスは、制度の対象とならない規模や種類の開発事業等について、 事業者が自主的にアセスを行い、地域住民や当該地域の環境に関心を持つ市民(以下、住民等)との対話により、 よりよい環境保全対策を見出そうとする取り組みです。
その中でも、私たちが「自主簡易アセス」とするものは、 対象とする事業の規模は、アセスに関する法律や条令に定める二種事業のさらに8割以下の中小規模の開発事業を想定しています。 また、事業の種類は、イベントの実施等を含め、建設行為の有無にかかわらず、 地域社会にとって懸念される環境負荷が見込まれるすべての事業を想定しています。
ただし、自主簡易アセスは、制度に基づく(または準拠した)手続きを逃れるための口実となってはなりません。 事業の規模や種類にかかわらず、大きな環境負荷が見込まれる場合、社会的な関心が高い場合などでは、 法令で定めるかそれに準拠した方法でアセスが行われるべきです。
日本の制度アセスは対象が大規模事業に限定されています。 また、事業の実施時期を分割したり、対象規模にならないようにぎりぎりの規模に抑えたりして、「アセス逃れ」する傾向が見られました。 そのため、日本では、米国や中国などに比べて、アセスの実施件数がとても少ないと指摘されています(原科2011)。
開発と環境の調和を図る観点から、制度アセスにおいても、対象とする規模や範囲の拡大が試みられています。 一方で、「自主アセス」「スモールアセス」「ミニアセス」「簡易アセス」「自主的環境配慮」など様々な言われ方により、 自主的なアセスの必要性や促進策が提言されています。 しかし、実際の取り組み事例は少なく、中には、住民等との対話の機会を設けていないものも見られます。
一方で、行政による開発指導等により、事業者に対して環境配慮が促される仕組みもあります。 しかし、これも多くの場合、住民とのコミュニケーションの機会が設けられていません。
アセスが積極的に行われていないことの理由としては、 事業者における資金的制約や反対運動への懸念等が一般論として挙げられています。 また、事例が少ないことも、どのように取り組んだらいいのか、どのような効果があるのかがわからず、 判断材料の不足となっていると思われます。
環境NPO等の側も、アセスに対する認知が浅く、アセスを「開発の免罪符」と決めつけて、 積極的に関わろうとしない傾向も見られます。 オランダやカナダでは、自主簡易アセスを業務とする環境NPOが多数存在し、 そうしたアセス実務の蓄積が環境保全対策における専門性のあるイニシアティブにつながっていると言われています。
本会では、このような問題意識から、以下の3つの目標により、自主簡易アセスの取組みを広げていきたいと考えています。
[1] | アセスの取り組みを、中小規模の事業に広げて、開発事業等における「作法」としての定着を図る。 |
[2] | 科学的な情報に基づく、事業者と住民等との対話を育てることで、日本における環境配慮の質を高める。 |
[3] | 環境NPOの業務として開拓し、環境NPOと事業者の協働を広げつつ、その経営基盤と環境配慮技術の強化に役立てる。 |
自主簡易アセスの取組みを広げていくためには、以下の3つの主体がそれぞれに協力しあっていく必要があると考えています。
[1] 事業者
* | とりわけ、中小規模の企業によって取り組まれるようにしたい。 |
* | 大企業や行政による事業であっても、その規模や小さく、制度アセスの対象とならない事業種類である場合は、 自主簡易アセスが積極的に導入されることが望ましい。 |
[2] 環境NPOやアセスのコンサルティング会社(以下、環境NPO等)
* | とりわけ、地域に根ざした活動を行う団体によって、地域における「環境の現場監督」として機能するように育てたい。 |
* | アセスのコンサルティング会社の持つ専門的なノウハウが、中小規模の開発事業においても生かされるようにしたい。 |
* | いずれの場合も、当該地域の環境に詳しい専門家(大学や研究機関、地域の博物館・資料館の学芸員等)の協力を積極的に求め、 より科学的・客観的な調査が行えるようにしたい。 |
[3] 国・自治体
* | 情報提供、説明会等の開催支援、経済的支援(利子補給、助成等) |
* | 自治体の環境配慮指針やCASBEE(建築物環境性能評価システム)等の既存政策手段との連携による技術的な支援。 |
自主簡易アセスは、枠組みにとらわれずに、事業の内容や実施地域の特徴(環境や地域社会の対応等)に応じて、 自由な設計により行われるものです。私たちが考える自主簡易アセスでは、その特徴として、以下の5つをあげています。
[1] 対話を重視した評価と環境保全対策の検討
* | 開発規模が小さくなればなるほど、景観やアメニティ、交通流、安心・安全といったテーマが重視されるようになる傾向が強い。 これら、客観的な評価が難しく、住民等がどのように感じるかが重要な意味をもつテーマについては、 住民等との対話を通じて評価を行い、必要な対策を見出す必要がある。 |
[2] 自由な設計、重点化
* | 制度アセスを雛形に考えるのではなく、地域や事業の特性、与えられている予算や時間の制約に応じて、実施方法を自由に設計できる。 |
* | 実施計画(方法)書や評価書の書式は、従来のものにこだわらず、簡潔さやわかりやすさを重視する。 |
[3] 既存公開情報の有効活用
* | 自治体の環境配慮指針や建築物環境性能評価システム、既往の環境影響評価書、 その他公開されている環境データを横断的に収集し、利用する。 |
* | 環境市民団体等が調査し、公表しているデータにもアンテナを張り、地域性のあるデータとして活用する。 |
[4] 現地に即した調査
* | 地域に根ざした環境NPOとして、現場に足を運び、地域社会にアンテナを張り、地域が求めるアセスとなるように努力する。 |
[5] ITによる支援
* | 従来の紙ベースのアセスとは違って、住民等との対話、自主簡易アセスの設計や予測評価などを、ITを利用して容易にする。 |